これからも続く一筋の道~伊丹敬之先生最終講義~

  2008年3月16日(この日は伊丹先生の誕生日)、一橋大学西キャンパス21番教室にて伊丹敬之先生の最終講義が行われました。日曜日の10時からという日時にもかかわらず、300人以上は入るであろう教室は満員で、急遽追加の椅子が用意されるほどの盛況でした。
 内容は、伊丹先生の経営学者としての執筆の歴史から始まりました。定量分析を中心に研究を始められましたが、現実感との解離を感じ取られ、そこから1980年には「経営戦略の論理」が生まれたとのことでした。奇しくもMichael Porter著「Competitive Strategy」も同年に世に出ましたが、そこにはそれぞれが日頃見ていた現実という暗黙の前提の相違があるとおっしゃっていました。何事もこのような前提を踏まえなくして是非を語ることの愚を、私は考えずにはいられませんでした。企業においても、それぞれの立場でモノを語ることが多いですが、背景や前提には注意して発言しなければならないと感じました。
 他にも多数の著書がおありになりますが、そこには一貫して「情報」という鍵概念があります。80年代より情報の重要性を指摘し、それをベースに、見えざる資産、人本主義、場のマネジメントという3つの概念が展開されたという全体俯瞰を示していただいたことは、膨大な伊丹理論を整理し、理解する上で大変意義あるものでした。
 質疑応答も伊丹先生ならではの切り返しで、含蓄深いものを感じました。直接的な答えを出すのではなく、質問者自らが再び考えられるような示唆を与えるという指導は、伊丹先生の一貫した姿勢であり、”The great teacher inspires.”の言葉を体現されるものでした。
 この最終講義で一貫して感じたのは、常に現実への深い洞察を怠らないことと、企業の命運はヒトが握っていることでした。伊丹先生は優れた経営理論を提示されていますが、それらは全て現実の現象に根差しており、そこから発展しています。このことから、現実の企業活動に対する深い洞察を元に、経営を理論化することを非常に大切にされていることが再認識できました。その現実の企業活動の中で、見えざる資産が蓄積し、さらに学習する企業活動の核として、ヒトが発展のカギを握っている重要な要素であることも理解できました。
 最後の言葉で、経営学における巨人ともいえる先生が、道半ば、とおっしゃっていることからもわかるように、これからもさらなる高みを目指してご活躍をされるバイタリティに満ち溢れた最終講義でした。同時に、我々MBAの学生も、歩み続けなければならない、と意を強くしました。伊丹先生の一橋大学での最終講義は、終わりなき経営の奥深さを考え続けなければならないことを教えられた、短くも非常に充実した時間でした。伊丹先生、長きにわたりお疲れ様でした。そして、今後も新たな道を歩まれ、さらなるご活躍をなされることを、HMBAを代表して祈念しております。我々MBAの学生も、伊丹先生の教えを受けたものとして、名に恥じないよう、これからの道を頑張って歩んで参りたいと思います。(7期 下西)

会場は立見が出るほど満席でした!
講義前の伊丹先生
講義中の伊丹先生