鈴木良隆先生退官記念講演・レセプション

  2008年3月22日、桜の蕾もほころぶうららかな春の日差しの中、鈴木良隆先生の退官記念講演とレセプションがマーキュリータワー内で行われました。休日にも関わらず、鈴木先生の講演には学外の関係者の方々や先生方、ゼミのOBの方々、現役学生などたくさんの方々が集まりました。なお、本講演は、鈴木先生の強いご意向により、「最終講義」と銘打たず、COEの成果報告会(コンファレンス)の最終日の午後に開催されました。

 本講演のテーマは「18世紀ヨーロッパ製造業の東洋へのキャッチアップと原料転換」でした。教卓には本講演のテーマと関連する織布が掛けられ、スライドの表紙にはいつもどおり「チェンバロ」の写真が映し出されました。MBAの講義においても、鈴木先生は「通説批判家」であり「演出家」であられましたが、本講演も例外ではありませんでした。

 まず、鈴木先生の「通説批判家」の側面は、本講演のテーマに表れていました。本講演の内容は、18世紀にヨーロッパの産品が、品質面・美しさではるかに優れているとされた東洋の産品を凌駕するまでに至った要因を、「産業革命」ではなく「原料転換」により説明する、というものでした。通説ではこの変化を産業革命(技術の転換)によるものとされていましたが、鈴木先生はその通説を否定し、「この過程に産業革命は関与していない。あくまで技術は既存のものを使用し、むしろ原材料を転換したことで成し遂げられたのだ。」と説明されました。例えば、中国の磁器を模倣してヨーロッパで作られた「ボーン・チャイナ」は白さと硬さにおいて磁器以上の高い品質を有する産品ですが、これは中国磁器の主成分(リン酸カルシウム)を含む「骨灰」と他の成分を混ぜ合わせた新しい原料を用いることで生まれたものでした。鈴木先生は、このような原料転換による変化を、アダム・スミス的な成長でありシュンペーターの言う新供給源泉の開拓でも説明できる、と述べられました。

 一方、「演出家」の側面は、冒頭に述べたとおり織布で教卓を飾り、さらに鈴木先生の研究室に置いてあるという「ボーン・チャイナ」をはじめとした、当時のヨーロッパが原料転換によって作り出したすばらしい産品を、研究室から持参された実物で(時にはスライド内に織り込んで)披露して下さった点に表れていました。「百聞は一見に如かず」の通り、実物を目にしてその産品のすばらしさを感じ取ることで、我々の洞察意欲もより一層掻きたてられました。

 鈴木先生は本講演を通じても、歴史を学ぶにあたって、通説に対して常に疑問を持つこと、すなわち、なぜそのような事象が起こったのか、なぜそのような結果となったのかという問題意識を常に持つことの重要性を示されました。MBAの講義においても我々学生は常にその意識を持つこと求められましたが、歴史上の通説に疑問を持ちそれを覆す論理を構築することは大変難しいことでした。本講演を聴き、改めて鈴木先生の研究に対する真摯な姿勢を強く感じました。本講演のテーマは鈴木先生が長年育んでこられたもので、まさに「ライフワーク」のようなものだとおっしゃっていました。今後もこのテーマに関する資料を紐解いていき、ひとつずつ論理を詰めていきたいとのことでした。

 講義後のレセプションでは鈴木先生をお慕いする関係者の方々が多数集いました。ワイン好きの鈴木先生らしく、赤ワインで乾杯。鈴木先生のお人柄通り、和やかな温かい雰囲気のなか、参加された方それぞれが鈴木先生との数々の思い出話に花を咲かせていました。鈴木先生は我々学生のテーブルにもお立ち寄り下さり、夏休み・春休みに開講下さった「続古典講読・続々古典講読」を振り返り、参加者一人ひとりに言葉を掛けて下さいました。

 鈴木先生はHMBAの特徴的カリキュラムである「古典講読」の創始者の1人です。「古典講読」「続古典講読」「続々古典講読」および鈴木先生がMBAで教鞭を取られた「日本経営史」を通じて学んだ「深く思考すること」「なぜそうなるかを常に考えること」は、即効性こそなくとも、我々の心と頭に深く刻み込まれた「確かな財産」となっています。鈴木先生の講義は、テクニカルなスキームではなく思慮深い人間(リーダー)を育てる、というHMBAの教育理念を体現するものであったと感じました。鈴木先生から教えていただいたことを胸に、残り1年間の学生生活、そしてその後の社会人生活を過ごしていきたいと強く思いました。

 最後に、鈴木先生、本当にありがとうございました。今後のご健康と益々のご活躍を心より祈念申し上げます。(8期 今西)

講演中の鈴木先生(1)
講演中の鈴木先生(2)
ご退官を祝して乾杯!
鈴木先生を囲んでハイポーズ!