教授 長岡貞男
元気で仕事に励んで居られると思います。日本経済の回復もあって、土日も返上して仕事をして居られる方もいらっしゃるのではと思います。
さて、私の近況を報告させて頂きます。国立MBAのプログラムでは、本年度は、「ビジネス・エコノミクス」及び「産業ワークショップ」を担当しています。ビジネス・エコノミクスは、皆様が在籍して居られた時には、「企業と産業の経済学」と呼んでいた科目です。欧米のビジネス・スクールではビジネス・エコノミクスの科目群はコアの一つとなっている場合が多く、一橋大学でもこの分野の研究教育を強化する方針に沿ったものです。伊藤秀史先生の「競争・協調分析」とタイアップしながら、ビジネスの問題への経済学的な思考を使った分析のエッセンスを、身につけて欲しいと考えています。産業ワークショップでは、今年は人数が多く、8名の方と一緒に研究をしています。女性の方が初めて3名となりました。
研究の方では、私は知的財産、研究開発などを中心に行っています。最近の研究は、イノベーション研究センターのホームページ(http://www.iir.hit-u.ac.jp/cgi-bin/searchstaff.cgi)で概観して頂くことが可能です。研究のテーマの一つは技術標準、特に多数の企業が協力をして標準を作成するコンソーシアム型標準で、以下それを紹介させて頂きます。MPEG2、DVD、3G規格などがコンソーシアム型標準の代表例です。多数の興味深い問題があります。
(1)例えば、標準に必須な特許を保有する企業の間で効率的な協力を行うことが可能かどうかは、コアリション・フォーメーション(提携)の理論から見て格好の応用分析テーマです。
(2)また、標準が成立した後で特許権が事後的に成立し、特許侵害を訴えられるホールドアップ問題もあり、標準の成立と必須特許の成立との関係の実態分析も重要になっています。
(3)更にホールドアップ問題を防ぐための、標準機関の政策、特許制度の在り方、競争政策の対応などもホットな政策課題です。
こうしたテーマに関する一群の研究について、在学中にRAをお願いした方もいらっしゃいますが、成果の一端を、2006年6月の国際シュンペーター学会(仏、ソフア・アンティポリス)で報告しました(“Theemergenceandstructureofessentialpatentsforstandards:LessonsfromthreeITstandards”)。
同学会では世界各国の学者が全体で約300本の論文を報告しましたが、以下のサイトで多くの論文を見ることが出来ます(http://www.schumpeter2006.org/index.php)。
また、この分野のより政策指向の私の研究成果は、公正取引委員会(http://www.jftc.go.jp/cprc/reports/cr-0405.pdf)と経済産業研究所(http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/index.html)とで報告・公表をしています。
研究とは直接関係しませんが、この学会で再確認したことは、欧州では経済とか経営の研究において、英語が事実上の標準言語となったことです。少し昔ですと、フランスで行われる学会では、仏語の論文を仏語で話される方がいたのですが、今回は全ての論文と発表は英語でした。英語をベースに欧州の学会は統合されつつあり、同じような傾向が今後アジアでも見られると思います。
最後に、国立MBAの卒業生の方の、ご発展を期待して、原稿を終わります。